各クラブでは、毎月の会員数、退会者数等から、退会率(会員在籍率〔生存率〕)を算出されていらっしゃることと思います。略式で考えると、例えば毎月の退会率が2.5%であったとすると、年間で30%の会員が退会することになります。また、毎月の退会率が4%とすると、年間で48%の退会となり、約半分の方が退会することになります。しかし実は、退会率は、入会からの月数によって異なっており、入会からの月数が経てばたつほど、退会する人の割合は低くなります。
図1.図2は、実際のフィットネスクラブの入会月からの会員在籍率(累積生存率)を表しているグラフです。
横軸が、在籍月数、縦軸が累積生存割合です。入会した月は、会員が全員在籍しているので、生存率は、1.0(100%)です。5か月ほど経つと、A.Bの両方のクラブで、生存率が90%ほどとなり、10%の会員が生存していなくなります(退会する)。その後6ヶ月から10か月ほどの間に、A.Bの両方のクラブのグラフの傾きが急になり、Aクラブで、4~5か月で20%、Bクラブで、30~40%低下します。
実は、ここのところのグラフの傾きが重要なポイントです。
Aクラブでは、12ヶ月経つ辺りから少し傾きが緩くなり、24ヶ月後以降では、ほとんどフラットになっています。Bのクラブでも、18ヶ月ごろから傾きが少し緩くなり、24ヶ月ごろからは、フラットに近づいています。
もちろん、クラブによって、このグラフの形や傾きが異なるので、まずは自分のクラブが、どのような生存分析曲線を描いているのかを知る必要があります。
このことは、1年~2年をさかのぼって、会員の入会時期と、在籍月数で計算によって確認できますので、各クラブでぜひとも、ご確認いただければと思います。
生存分析 〔COX回帰分析〕
図1. Aクラブ 年間退会率 約30%(12ヶ月で、70%の会員が継続して在籍〔生存〕している)
図2.Bクラブ 年間退会率 約50% (12ヶ月で、50%の会員が継続して在籍〔生存〕している)
自クラブの会員の生存分析を行った後は、何か月後に、一番やめる人が多いかを知ることが大切です。
上記のA.Bの両方のクラブでは、傾きが急になり6ヶ月後辺りから、退会者が増えるので、その前に退会予備軍を見つけて、フォローをする必要があります。6ヶ月に退会しているということは、少なくとも、入会後3~5か月後には、その予兆があると思われます。
通常だと、入会後1ヶ月後は、物珍しさも手伝って、頑張って週2~3回程度利用します。しかしその後慣れてくると様子もわかり、利用頻度はそこまでも高くなくなってきます。2か月目に入って利用が月に4回程度になり、3ヶ月目は月に2回、4ヶ月目は1回、5ヶ月目は0回となり、もったいないから退会するというのが代表的な、退会につながるパターンではないでしょうか。
利用頻度と会員定着を調べた最近の先行研究では、図3のように、平均出席頻度は1か月目の7.48から、6か月目の2.44、12か月目の0.92に低下しました。(一番左のMean欄)同様に、少なくとも月1回出席した新規会員の割合は100%から減少しました。 (一番右の%欄)1か月目の100%、6か月目の50%、12か月目の22%となっています。
【図3】【頻度と会員定着させることの重要性について、Matthew Rand, et.al. 2020. 】
前述のように、6ヶ月、8ヶ月、10ヶ月が、退会する会員とそうでない人の行動に変化が出るタイミングですので、退会の防止には非常に重要な時期です。当社では、入会時に会員にアンケートを実施することで、最新のエビデンスと新しい知見とに基づいて、退会する可能性の高い人を、6ヶ月、8ヶ月、10ヶ月にわけて、入会時に退会確率を予測しています。その退会確率の高い人から、フォローを行っていく必要があります。具体的には、下記のAクラブでは、10か月の退会率を25%(グラフより読取る)として、それより高い人、さらに30%以上の人と色分けし、まずは黄色(30%以上)、その後オレンジ(25%以上)の人にわけて、フォローアップしていきます。
Aクラブ フォロー例 【表1】
〔表1〕
Bクラブについては、10ヶ月時では、40%と読み取れるので、40%をピンクに、30%以上をオレンジに色分けし、まずはピンクからフォローし、その後オレンジをフォロー対象者として、絶対にやめないように対応を行います。〔表2〕
Bクラブ フォロー例
【表2】
Aクラブの退会予測と退会実績
Aクラブの退会確率と実際の退会をしたかどうかを検証したのが、表3です。10ヶ月間の実際の退会者は、会員番号1、12、14、18、21・…。となっています。50人中、退会者が13人、そのうち退会予測で10ヶ月以内に退会すると予測したのが、9人でした。 【表3】
Bクラブの退会予測と退会実績
Bクラブの退会確率と実際の退会をしたかどうかを検証したのが、表4です。10ヶ月間の実際の退会者は、会員番号3、5、6、9、13・…。となっています。50人中、退会者が12人、そのうち退会予測で10ヶ月以内に退会すると予測したのが、8人でした。
【表4】
以上のように、入会時のアンケートで、10ヶ月後の退会確率を算出して、フォローすることができれば、とても効率的に、退会予防を行うことができます。