研究・業界情報

フィットネスクラブは、会員制ビジネスであり、月会費が定額である場合がほとんどです。

今はやりの定額サービス(サブスクリプション)ですが、短期間で脱落したり、途中でやめてしまっては事業として成り立ちません。

フィットネスクラブでは、入会していただいたら、継続していただくことが最も重要です。しかし、既に明らかになっていることとして、「運動を始めたにも関わらず、3~6か月後には、約半分の人が、辞めてしまう。」〔Dishman(1988)、Berger, Pargman & Weinberg, (2002),〕ことや、「フィットネスクラブに新たに入会したにもかかわらず、40~65%が、3~6か月で退会してしまう。」〔Annesi J. (2003)、Jan Middelkamp et al,(2017)、〕ことが分かっています。国内でも、「フィットネスクラブに入会した会員が1年以内に約40%が退会する」〔中路恭平(2006)〕ということが報告されています。

よって、運動は続かないもの、フィットネスクラブの会員は入会しても習慣化する前に半分近くは、ドロップアウトものだとして、対策を考えないといけません。

フィットネスクラブでの運動継続についての研究は、ほとんどありませんが、前号でも記載させていただいたとおり、地域の高齢者を対象にした運動継続の研究や、職域における運動継続の特徴、介護予防教室での運動継続の要因については明らかにされており、それらの知見はとても参考になります。

細井らは、地域高齢者の継続性のある運動の条件として, 運動開始前に,対象者が①目標設定しやすく,②効果が期待でき,③阻害要因の影響を受けにくく,④「自己決定した」と思えるものであること,また,運動開始後に, 対象者が⑤「楽しい」,「気持ちがいい」と思え,⑥効果が実感でき,⑦習慣化しやすいことが挙げられる、としています。1)

フィットネスクラブでは、入会申込書に入会目的や目標の欄がある場合、「痩せたい」とか「運動不足解消」、「腰痛を解消したい」、「冷えやむくみを取りたい」とか記入するものの、実際にはその目的に対しての具体的な方法を示されるわけではなく、マシンの使い方や施設の利用法は案内されますが、その目的に近づくためのプロクラムの詳細のカウンセリングや効果の判定についての尺度については示される場合が少ないのではないかと思います。そのプログラムを実施するための阻害要因(実施の妨げになる事柄:例えばダイエット目的の人への食事のコントロール)をピックアップしてそれに対する対応策を示すことも重要な継続サポート策です。また、「自己決定したこと」としての行動、すなわち、本人が自分のこととしてその目的に近づくことを強く意識しないと何となく「やれと言われたからやる」というような気持ちでは、続くはずがありません。そのプログラムを実施すること自体がとても楽しく、又はとても気持ちいいと感じることかどうかも検証し、1~2ヶ月で効果を実感でき、

手軽に、いつでも、どこでも、短時間でできるものも提供することで、習慣化が図れます。

また、ヨーロッパで身体活動の継続に至るまでの心理学的アプローチとしてHealth Action Process Approach(以下,HAPA)という予測モデルが、広く用いられています。

それによると運動の継続を支援するための心理的なアプローチとしては「運動しよう」という行動意図が重要であり,行動意図を反映しない介入は運動継続に効果がないことが報告されています。2)

健康行動に至る心理的過程を示したモデルを図1に示します。

HAPAでは行動意図を確立し,運動を開始する動機づけ段階(Motivational Phase)と,行動を継続する意図段階(Volitional Phase)の2つの時期を仮定しています。動機づけ段階においては運動をしないことのデメリット(リスク)を認知すること,運動により得られるメリット(結果)への期待,自己効力感:Self-Efficacy(以下,SE)〔運動を行える自信〕を高めることが行動意図と関係するとしています。一方意図段階では,行動意図 は直接的に行動に結びつくわけではなく,行動意図と行動の間にはPlanningの存在を想定しています。Planning には Action Planning(行動プラン)とCoping Planningの2種類を想定しており,行動プランとはいつ,どこで,どんな行動をするかという具体的なプランを示し,Coping Planningとは想定される様々な場面に対処する具体的なプランを示します。3)

さらに,動機づけ段階と意図段階で異なるSEがあり,意図段階においては行動を持続するためにMaintenance Self-Efficacy(以下,MaSE)と何回か休んでも再開できる自信(Recovery SelfEfficacy(以下,Re-SE))が関係するとしています。つまり,行動の開始を支援する時期と行動の継続を支援する時期では異なる支援方法が必要であることを示しています。

フィットネスクラブでのAction Planning(行動プラン)とは「いつ(when)」,「どこで(where)」「なにを行うか(what)」というプランを指し、Coping Planning(対処プラン:うまく導くプラン)は、その内容についてうまくいくように詳しく考えるプランを指します。

たとえば、「痩せたい」という会員に対しての動機づけ段階では、痩せることに対するメリット〔結果への期待〕(昔、履いていた29インチのジーンズが履けるようになる)とデメリット〔リスクの認知〕(食事のコントロールが必要)を伝え、このプログラムをやる自信〔SE〕があるかを確認し、行動意図を確認します。

そのうえで、Action Planning(行動プラン)としてフィットネスクラブにいつ来るか(When)、どこを利用するか(Where)、なにをやるか(What)をプランニングし、Coping Planning(対処プラン:うまく導くプラン)のプログラムとして、ジムのマシントレーニングの種目・回数・セット・頻度等の指導と食事コントロール(栄養指導を含む)の指導、食生活習慣、生活活動習慣などの生活リズムの指導を行います。

この中で、最も大切なことは、Action Planning(行動プラン)のなかの「いつ(when)」くるかのプランニングです。これが決まらないと結局これなくなり、退会になってしまいます。

フィットネスクラブでは、運動を継続できている者と継続できていない者では この行動プランの有無や内容に違いがあるのではないかと思います。各クラブでは、行動プランの「いつ」に焦点をあてて,どのような行動プランが運動継続に関連しているかを検証することは,運動の継続を支援するための効果的な介入方法を検討するために重要であると考えます。

図1

 

引用文献

1) 細井俊希 , 荒井智之 , 藤田博曉 . 行動科学の理論に基づいた運動プログラム「ロコトレ BBS」の効果-地域高齢女性における運動の継続に関する検討- . 理学療法科学 . 2011; 26(4):511–514

2) Schwarzer R: Modeling Health Behavior Change: How to Predict and Modify the Adoption and Maintenance of Health Behaviors. Appl Psychol. 2008; 57: 1‒29.

3)中野聡子 , 奥野純子 , 深作貴子 , 他 . 介護予防教室参加者における運動の継続に関連する要因 . 理学療法学 . 2015; 42(6):511–518.

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