研究・業界情報

2018年から2019年にかけて、医学系の著名なジャーナルにフィットネスクラブ関連の運動継続に関する論文が、掲載されています。


5月30日から6月3日まで、アメリカのデンバーで行われたアメリカスポーツ医学会〔American College of Sports Medicine:ACSM〕に参加させていただきました。のべ、3800本を超える演題が、発表され、世界中の医学とスポーツにかかわる研究者が集って、学会が盛大に開催されました。昨年は、共同研究者としての参加でしたが、今年は、「Predictive Indicators of Early Fitness Club Membership Termination in Japan: A Cohort Study」(フィットネスクラブ早期退会の予測因子を明らかにする研究:日本人を対象としたコホート研究)について、発表させていただきました。私の発表は、一昨年から昨年にかけて全国の17のフィットネスクラブにご協力していただき、約1,900人の入会者を対象に、入会後一年以上続く会員と一年以内で辞めてしまう会員の身体的、社会的、心理的要因についての差を見る研究の中間報告として、解析中データの一部を発表しました。

まだ、解析途中なので、断定的なことは言えませんが、早期退会しやすい人の傾向としては、年齢的には、若い人ほど早期退会しやすく、ドクターからの指示や健康増進など目的がはっきりしている人とストレス解消などのぼやっとした目的などの人とでは、はっきりしていない人のほうが、退会しやすいという傾向であり、心理的要因として「自分の能力を他人に認めてもらえる」や「外見が良くなる」と回答する群は早期退会しやすい傾向でした。

ハーバード大学のI-min Lee教授にたくさん質問いただき、頭が真っ白になりましたが、興味をもって頂き、とても光栄で嬉しいことでした。


最近、2つのフィットネスクラブに関する研究の論文がヨーロッパから、発表されています。

「The Effects of Two Self-Regulation Interventions to Increase Self-Efficacy and Group Exercise Behavior in Fitness Clubs」(フィットネスクラブでの自己効力感とグループ運動行動を増やすための2つ自己規制のための介入研究)【Journal of Sports Science and Medicine (2016) 15, 358-364〔IF=1.6〕】

フィットネス未経験のボランティア122人の被検者にフィットネスクラブ参加を促し、ランダムに3つのグループに分けて、以下の条件を付けて参加率等を調べる研究です。

  • のグループは、15のサイクリングのバーチャル(ビデオ)プログラムに参加できるグループ
  • ①のプログラムに加えて、実際のインストラクターが指導するグループエクササイズに参加できるグループ
  • ①+②に加えて、個人の数字目的や来館頻度を設定するコーチングを3回受けられるグループ

に分けて、12週間観察しました。

その結果、①グループの12週間での平均利用回数は、2.74回/人、②グループ平均利用回数は、4.75回/人、③グループ平均利用回数は、12.25回/人でした。

グループごとの週の平均利用回数は、①グループ0.23回、②グループ0.40回、③グループ1.02回でした。

12週間でのドロップアウトの割合は、①グループ88%、②グループ78%、③グループ48%でした。

従って、フィットネスクラブに参加していただいて12週間の間に①グループで88%、②グループで78%、③グループで48%が、やめてしまったという結果でした。

このことは、会員のドロップアウトを減らすには、ただ、グループエクササイズを提供するのではなく、個別の目標や来館頻度等のコーチング(カウンセリング)が、重要であるということを示しているのかもしれません。

日本でも、スタジオやジムでグループエクササイズが、盛んにおこなわれており、いろいろなプログラムが提供されています。ただ、あくまでも、場所の提供、プログラムの提供であり、個人がどの程度、目標に近づいているのかや利用頻度についての具体的なアドバイスが行われていないのが現状です。

 

また、別の会員データと退会者の傾向を見る研究では、以下のようなものがあります。

「Attendance Behavior of Ex-members in Fitness Clubs: A Retrospective Study Applying the Stages of Change」 (フィットネスクラブの前会員の来場行動:行動変容ステージを利用した後ろ向き研究)

【Perceptual and Motor Skills 2016, Vol. 122(1) 350–359、 2016 〔IF=0.7〕】

この研究は、フィットネスクラブの会員の来場行動の変化と傾向を知り、行動変容のステージ段階を研究するために、ヨーロッパで最大のフィットネスクラブチェーンのBasicFitクラブとHealthCityのクラブの元メンバーのデータを用いて、研究されました。

トータルで259,355人が2012年に退会しました。この前会員の中からランダムにサンプルを選択しました。メンバーは、年齢18歳~65歳。HealthCityクラブの10,298人のメンバー、およびBasicFitクラブの6,366人のメンバーが対象とされました。最終的に、200人 HealthCityと200人 BasicFitのメンバーを、このデータベースからランダムに選択しました。そのデータをもとにTTM(Trans Theoretical Model)の行動変容ステージを用いて、フィットネスクラブの来場の行動パターンを調べることを目的としました。400人のサンプルをランダムに抽出し分析、定期的な来場行動を、月あたり少なくとも4回の利用すること(週一回利用)と定義されました。すべての元メンバーが会費を払っていたし、そのことにより、準備段階に入っていると考えられましたが、19.5%が24ヶ月間クラブに参加したことがありませんでした。元メンバーのうち、10%が6ヶ月間の定期的な来場者であり、そして2.3%は24ヶ月の定期的な来場をしていました。 49%が丸一ヶ月クラブに来場しませんでしたが、その後再び定期的な来場を開始していました。来場行動について有意な正の相関が6か月と12ヶ月(r=.61)、および12か月と24ヶ月(r=.45)でありました。

このことは、6ヶ月以上来場した元メンバーが継続して来場をしようとする来場行動を維持している可能性が高いことを示しています。また、入会したにもかかわらず、約2割の人が、2年間全く利用しないまま退会していたり、約半分の人が、丸1か月利用がなく、その後また利用を開始しているとのことです。結局、24か月連続して月4回以上利用している人は、2.3%しかいなかったということですので、いかに継続して通うのが難しいということが分かります。ただ、6か月利用していただいた会員は、12か月続いて利用されている方との相関高いので、続く可能性が高く、12か月も同様に24か月との相関がありますので、まずは何としても6か月続けていただく努力が必要だということです。

このようなことは、何となく感覚ではわかっている部分はありますが、実際にエビデンスで確認できるとより説得力もあり、またこのようなデータが蓄積されることが、重要だと思います。

 

 

各フィットネスクラブでは、新規会員を集めることや利用者の継続利用を促すプログラムをいろいろ工夫してはいるが、エビデンスに基づいた効果的な方法が確立できていないのが現状です。

現場では、すぐに成果の上がる広告の工夫や営業活動には労力をかけるものの、上記のようなデータを現場で調査することに労力をかける風土は醸成されていません。

この背景にはエビデンスの重要性やエビデンスを生み出すための疫学的研究手法を理解している経営者、運営者が現場にほとんどいないことが一因であると考えられます。私は、フィットネスクラブを経営しながら、少しづつ自らも疫学研究を実施し、エビデンスを発信していきたいと考えています。

そして、私たちが発信したエビデンスが他のフィットネスクラブにおいても利用されるとともに、他のフィットネスクラブからもエビデンスが発信され、フィットネスクラブが真の健康寿命延伸産業に発展していくことを期待しています。大手フィットネスクラブや会員管理をクラウドサービスで行っているところでは、すでに、かなりデータが蓄積されていることが、想定されます。それらを利用して多くのエビデンスが発信されることで、たくさんの人がフィットネスクラブを利用し、ひとりでも多くの人たちの健康寿命が延伸されることを願っています。

ACSM抄録

フィットネスクラブ早期退会の予測因子:日本人を対象としたコホート研究

Nobumasa Kikuga 1), Susumu S. Sawada FACSM 2), Munehiro Matsushita 3) Yuko Gando 2)

Natsumi Watanabe 4), Yuko Hashimoto 4), Yoshio Nakata 5), Robert Sloan 6), Steven N. Blair FACSM 7) Noritoshi Fukushima 1) Shigeru Inoue 1)

 

  • Tokyo Medical University, Tokyo, Japan 2) National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, Tokyo, Japan 3) Waseda University, Saitama, Japan 4) Juntendo University, Tokyo, Japan 5) University of Tsukuba, Ibaraki, Japan 6) Kagoshima University, Kagoshima, Japan 7) University of South Carolina, Columbia, SC

 

日本における民間フィットネスクラブでは約4割の人が、1年間以内に退会(早期退会)することが報告されている。早期退会する人に共通の特徴があるかも知れない。もし共通の特徴があるのであれば、その特徴を明らかにすることによって早期退会を予防できるかも知れない。

【目的】本研究はフィットネスクラブを早期退会する集団がどのような特性を持っているかをコホート研究によって明らかにする。

【方法】17のフィットネスクラブにおいて、2015年4月1日から2016年3月31日における入会者に自記式質問紙によるアンケート調査を実施した。調査項目は以下の項目である。①基本属性(性、年齢、職業、学歴)、②入会目的および利用希望頻度、③健康状態(主観的健康観、通院の有無、BMI)、④心理要因(運動促進要因、運動阻害要因、運動自己効力感)。対象者を2016年3月31日まで追跡し、追跡期間中の早期退会の有無を把握した。ロジスティック回帰モデルを用い、退会の有無を目的変数、入会時の調査項目を説明変数として各変数のオッズ比と95%信頼区間を求めた。

【結果】本研究の参加者は1,839人(平均年齢37.9歳、SD=15.4、男性28.3%)であった。12ヵ月(平均6ヵ月)の追跡期間中に428人(23%)が早期退会した。退会者は非退会者と比較して年齢が低い傾向であった。年齢が5歳増加ごとの退会の性別調整オッズ比(95%CI)は0.91(0.87-0.94)であった。その他の基本属性および健康状態については統計学的に有意な退会の予測因子はみあたらなかった。その他の調査項目について、ストレス解消を目的に入会したと回答した群は、そうでない群と比較して退会の性・年齢調整オッズ比(95%CI)が1.33(1.06-1.68)であった。また、健康増進を目的に入会したと回答した群は、そうでない群と比較して退会の性・年齢調整オッズ比が0.81(0.65-1.01)であった。運動の利点に関して「自分の能力を他人に認めてもらえる」という質問に対して「そう思う」と回答した群は、「そう思わない」と回答した群より退会の性・年齢調整オッズ比が高かった(OR=1.46,95%CI:1.11-1.91)。同様に「外見が良くなる」という質問に対して「そう思う」と回答した群は、「そう思わない」と回答した群より退会の性・年齢調整オッズ比が高かった(OR=1.33,95%CI:

1.03-1.72)。

【結論】コホート研究の手法を用いることで、フィットネスクラブの早期退会の予測因子として、年齢が若いこと、ストレス解消を目的とした入会などを見出すことができ、健康増進を目的とした入会は早期退会に対して予防的に働く可能性が示唆された。また、運動の利点として「自分の能力を他人に認めてもらえる」や「外見が良くなる」と回答する群は早期退会しやすい傾向にあることが示唆された。

 

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