令和6年4月から新しく健康日本21(第3次)がスタートし、厚生労働省から、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が、発表されました。
「フィットネス」という言葉が初めて採用され、運動実践にフィットネスクラブ(以下FC)で行うことを意識した内容が示されるなど、行政側も民間の施設を利用した健康づくりを推奨しています。また 高血圧や糖尿病などの疾病別運動プログラムを作成し、それを実践する場所としてトレッドミルやエルゴメーター、ウェイトマシーンを利用したトレーニングプログラムが示され、それらを備えたフィットネスクラブでの利用を想定しています。
高血圧の人を対象とした運動プログラムにおいて、高血圧を改善するには、有酸素運動や筋力トレーニングを行うことが有効で、エビデンスに基づいて最高血圧が3~5mmHg、最低血圧で2~3mmHg低下することが期待できるとされています。そのためのプログラムとして、有酸素運動を最高心拍数の50~60%の強度で30分を週3~5回、筋力トレーニングを軽い負荷で10~15回*1~2セットを週に2~3回実施し、モデルとして運動時間を60分~90分とることが推奨されています。
これらのことは、今までは、FCではなく公園や体育館などの施設を使ってジョギングや自重負荷で行うことを想定していました。それが、FCに通って、上記のようなプログラムを行うことが望ましいとガイドラインとして示しています。
高血圧は、日本では、死亡リスクの割合は、喫煙に次ぐ、第二位で
非常に死亡リスクの高い疾病です(Ikeda.et.al.2012)。日本人は50歳(女性60歳)を超えると2人に1人以上が高血圧になりますので、積極的に取り組んでいくべき課題です。(高血圧治療ガイドライン2019)
ただ、普段から運動している人の割合は、20歳~64歳の男性で
23.5 %、女性16.9 %、65歳以上男性41.9 %、女性33.9 %
にすぎません。(身体活動・運動ガイド2023)
中高年の普段から運動していない人に、いきなり有酸素運動や筋力トレーニングの実施は、とてもハードルが高いと言わざるをえません。(Harada K et al. 2008)
そこで、より参加しやすい運動として、ストレッチが注目されています。近年、ストレッチをおこなうことで、動脈スティフネス(動脈硬化指数)が改善し血管が柔らかくなることが明らかになってきています(Nishiwaki et al. 2015)。
特に注目すべき知見として、体の柔軟性が低い(すなわち、体が硬い)と動脈スティフネスの値が高く、動脈も硬化していることが示されています。こうした状態は、血管が硬く、やがて血圧も高くなると考えられます。反対に、体の柔軟性が高い(すなわち、体が柔らかい)と動脈スティフネスの値も低いことが示されています。こうした状態は、加齢に伴う動脈の硬化が少なく、血管も柔らかいので、血圧も低く保たれると考えられます。また、近年では、身体の柔軟性が高いと、高血圧の発症率も低いことが示されています。(Gando et al.2021)
フィットネスの現場では、ストレッチは、ウオーミングアップやクールダウンとして行われたり、疲労回復や肩こり・腰痛解消のための体調調整プログラムとしての利用が多くなっています。
ただ、ストレッチを自分で行おうとすると、なかなか正確に実施できなかったり、体が硬いことでうまく目的の部位が伸ばせないこともあったりします。各クラブでは、ビデオを見て行ったり、トレーナーに指導してもらってストレッチしていますが、一人ではなかなか正確に実施できず、継続できないのが現状です。
当社では、20年以上前から、肩や腰、脚をストレッチできる機器をオリジナルで開発して、利用しています。
ベッドで、身体を横にして、バーを握ったり、身体をマシン委ねることで、肩周辺や腰部、脚部を、マシンが動いて無理なくストレッチしますので、一定時間機器に乗っているだけで、身体がほぐれます。加えて、今回のストレッチで循環器疾患発症の予防を改善する効果が期待できる可能性があるというエビデンスは、中高年の健康不安を解消するプログラムとして有用なものになることが期待されます。
今回、9月3日に行われた第78回日本体力医学会学術大会(佐賀)において、「ボディメンテナンス装置を用いた他動的軽運動が動脈スティネスに与える影響」について、発表させていただきました。
被検者15人の健常者の男女にパッシブストレッチの機器4種類を30分間使用した群と何もせずに30分間機器の上に寝ていたり、立っていた群とで、動脈スティフネスの数値を比較しました。
パッシブストレッチを行った群は、使用後、有意に動脈スティフネスの数値が低下し、血管年齢(-3.8歳相当)も低下しました。
今回は、一過性の実験による効果の判定でしたが、先行研究において、単回のストレッチによる動脈の反応と定期的なストレッチによる動脈の適応において、動脈変化の方向性が一致しており、定期的なストレッチングが動脈スティフネスを低下させることは既に複数の先行研究で報告されています。したがって、FCで、継続的にパッシブストレッチマシンに乗っていただくと、動脈硬化指数が改善し、高血圧の改善が期待できる可能性が有ります。
身体活動・運動ガイド2023では、症状別の運動プログラムが示されていますが、普段から運動している人は、
肥満である可能性は低く、従って健常者である可能性が高いと考えられます。高血圧や糖尿病、心疾患などの生活習慣病の人にとっては、運動をすることそのものがハードルが高い行動です。
普段から運動しない人にとっては、運動は苦手であり、「つらいこと」、「しんどいこと」、「疲れる」などのマイナスイメージが先行し、積極的に取り組もうという気にならないかもしれません。(Forkan et al.2006)
普段から運動しない人に対しては、まずは、リラックスして疲労をとるための受動的なストレッチを進めることで、疲れている身体をほぐし、「気持ちいい」、「楽になる」、「楽しい」、「これなら続けられる」という、安心感を感じていただき、続けたいと思っていただけるアイテムであることが求められます。(Hosoi T et al.2011)
エクササイズとして、続けられる自信(セルフエフィカシー)を付けてあげることで、フィットネスの入口に立つことができ、少しづつ、有酸素運動や筋トレにつなげていけるプログラムやシステムが不可欠であると感じます。(C Gjestvang, 2021)