フィットネスクラブ経営で求められるエビデンスと問題点① の続きです。
2016年秋に、第71回日本体力医学会大会が、盛岡市で行われました。その中の「現場の知見から公共の知識への昇華~ScienceでありArtでもある体力科学~」のシンポジウムで、『フィットネスクラブ経営で求められるエビデンスと研究を実施する際の問題点』について、シンポジストとして以下のような内容を発表いたしました。(前回の続き)
フィットネスクラブの利用者を増加させるためには、入口を広げ出口を狭めることが必要だと考えています。そして、そのための研究として、3つのテーマを掲げて疫学研究を実施しています。(図1)
図1
横断研究で、どんな人がフィットネスクラブに入会するかが明らかになった後は、縦断研究、つまり、コホート研究によって明らかにしていこうと考えているテーマで、どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?です。
現在、入会者の追跡を終了し、得られたデータを解析中です。
この研究は、新規加入者を増やし、継続していただくためにはどのようにしたらよいかを調べるための研究を3年前にスタートしました。
図2
「どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?」に関するコホート研究〔縦断的に調査する方法〕をご紹介します。(図2)
入会時、アンケートを実施し、その会員が早期退会するかどうかを調査します。
早期退会とは、入会後1年以内の退会のことです。
入会時に調査した年齢、性別、職業、入会目的や希望利用頻度、運動促進要因〔運動することの主な利点〕、運動阻害要因〔運動をしないときその主な理由〕、運動自己効力感〔運動を続けて行える自信〕などをアンケート調査して、早期退会者と一年以上続いた人に分けて、集計し、それぞれの群でどこが異なるかを分析します。
早期退会はフィットネスクラブ業界においてとても重要な課題と考えられています。
フィットネスクラブに入会した約40~50%の人が早期退会するというデータが報告されています。
したがって、早期退会をいかに減らすかが、クラブ運営にとって重要な課題になっています。
しかしながら、どのような人が早期退会するかについてはフィットネス業界において全く把握できていない状況です。このことを調べることは、とても有用で、あらかじめどういう特徴の人が早期退会するかが分かれば、入会時にアンケートを実施して、その特徴と合致する人には、手厚くサポートして早期退会させないということが可能になります。
(図3)
図3は、予想される結果です。
解析や考察は、まだ終わっていませんが、こちらに予想される結果を示しました。
例えば、「入会目的については「健康増進」を目的に入会した人を基準すると、「リラックス」を目的に入会した人の早期退会の危険度が1.8倍」ですとか、「運動習慣を続けられる自信を強く持っている人を基準にすると、運動習慣を続けられる自信が弱くなるに従って早期退会の危険度が高くなっていく」といった
結果が得られるのではないかと予想しています。このような早期退会者の多くが持つ特徴を明らかにできれば、効果的な退会予防プログラムを考えることができるのではないかと期待しています。
本研究計画はすでに本年の6月18.19日に早稲田大学で開催されました第19回日本運動疫学会で発表させていただきました。
また、この結果は、来年アメリカのデンバーで開かれるACSM(American College of Sports Medicine, 2017; Denver.USA)で、発表いたします。
コホート研究が終了して、早期退会者の特徴を明らかにした後、退会率を下げるプログラムの効果を介入研究によって検証したいと考えています。
図4
図4は、
クラブに協力していただいて、20クラブを2つのグループに分けて、ひとつは通常の運営をするグループで、もう一つは、介入プログラムを実施するクラブです。
研究デザインは、クラスター・ランダム化比較試験というデザインになります。
介入群に割り当てられた店舗では、例えば、カウンセリングを実施し、週間プログラムを作成しフォローするプログラムを1年間提供します。
対照群に割り付けられた店舗についてはこれまでどおりのクラブ運営を行います。
そして1年後の早期退会率を比較するというものです。
図5は、予想される結果です。
もし提供したプログラムが効果的であった場合は、こちらに示しましたように、新規入会者の累積退会率に対象店舗と介入店舗に差が出ることになります。
もし差がでなかった場合には、再度プログラムを計画し直して、介入研究をすることになります。
私たちフィットネス業界におけるフィットネスクラブの利用者を増加するためのプログラム効果を見るためにも使用できるのではないかと期待しています。
各フィットネスクラブでは、新規会員を集めることや利用者の継続利用を促すプログラムをいろいろ工夫してはいるが、エビデンスに基づいた効果的な方法が確立できていないのが現状です。
現場では、すぐに成果の上がる広告の工夫や営業活動には労力をかけるものの、上記のようなデータを現場で調査することに労力をかける風土は醸成されていません。
この背景にはエビデンスの重要性やエビデンスを生み出すための疫学的研究手法を理解している経営者、運営者が現場にほとんどいないことが一因であると考えられます。
私は、フィットネスクラブを経営しながら、少しづつ自らも疫学研究を実施し、エビデンスを発信していきたいと考えています。
そして、私たちが発信したエビデンスが他のフィットネスクラブにおいても利用されるとともに、他のフィットネスクラブからもエビデンスが発信され、フィットネスクラブが真の健康寿命延伸産業に発展していくことを期待しています。
大手フィットネスクラブや会員管理をクラウドサービスで行っているところでは、すでに、かなりデータが蓄積されていることが、想定されます。それらを利用して多くのエビデンスが発信されることで、たくさんの人がフィットネスクラブを利用し、ひとりでも多くの人たちの健康寿命が延伸されることを願っています。